「これは花々様……いらっしゃいませ」 「日日日先輩は!?」 「リビングにてお茶を飲まれていますが……」 「お邪魔します!」 「お茶は何がよろしいでしょう?」 「ほうじ茶」 「ではそのように」 「先輩!」 「ん〜? ていうか本当に乗り込んできたのかよ。どうやって俺の実家の住所なんか知ったんだ?」 「お姉様に聞きました」 「音々か……」 「はい」 「足は?」 「蕪木グループのハイヤーを」 「贅沢な野郎だな。いや、女郎か」 「そんなことはどうでもいいです! なんで平然と待ち合わせを蔑にしたんです!?」 「待ち合わせなんてしてないだろう?」 「はぁ? その年でアルツハイマーですか?」 「なわけあるか」 「では何故?」 「俺とお前の会話をよく思い出してみろ」 『十五時にモール集合……それから話し合いましょう』 『十五時……モール……』 『そうです』 『じゃあ切るぞ』 『はい』 「な? 俺は一言も行くなんて言ってないだろ?」 「詐欺の理論じゃないですか!」 「誤解誘発のための誘導ではあるが詐欺は言いすぎだろ」 「そんなことはどうでもいいんです!」 「なら怒るなよ」 「花々が言いたいのはですね――」 「花々様。お茶をどうぞ」 「――ありがとうございます」 「…………」 「…………」 「で!」 「で?」 「花々が言いたいのはですね!」 「はあ」 「なんでお姉様をふったんです! ってことです!」 「何でと言われてもな……」 「…………」 「他に好きな人間がいるから……かな?」 「それはお姉様に――」 「ほら、花々ちゃん。茶菓子あるよ。煎餅」 「――いただきます」 「…………」 「…………」 「で!」 「で?」 「それはお姉様に聞きました」 「音々の口が軽いのか……単に事情が軽いのか……」 「…………」 「まぁ後者だろうな」 「よくもいけしゃあしゃあと……!」 「…………」 「……っ!」 「アキラ」 「なんでしょう日日日様?」 「お茶」 「はいな。何にいたしましょう?」 「ほうじ茶」 「了解しました」 「姫々」 「なぁに日日日ちゃん?」 「煎餅とって」 「はいな」 「この……! ジゴロ……!」 「花々ちゃんもはい」 「……ありがとうございます」 「…………」 「…………」 「…………」 「先輩?」 「なんだ?」 「アキ先輩のことアキラって……」 「まぁ色々あって」 「アキ先輩も先輩のことご主人様じゃなくて日日日様って……」 「まぁ時間とともに変わるものもあるから」 「恋仲なんですか?」 「さてな」 「で!」 「で?」 「なんでお姉様を蔑に!?」 「だから好きな奴が他にいるからだよ」 「アキラですか!」 「他にいないだろう?」 「っ!」 「…………」 「日日日様、お茶です」 「早かったな」 「お湯自体は既に沸いていたもので」 「ですか〜」 「…………」 「…………」 「なんだか最近私の立場がアキちゃんに取られっぱなしな気が……」 「申し訳ありませんが、こればっかりは譲れません」 「私だって日日日ちゃんに奉仕したいのにぃ」 「…………」 「姫々もよくやってるよ」 「慰みは結構だよぅ」 「本音だがなぁ」 「…………」 「…………」 「…………」 「で!」 「で?」 「日日日先輩は!」 「俺は?」 「なんでそこまでアキラに固執するんですか!」 「好きだから」 「…………!」 「他に理由がいるか?」 「過去の亡霊を愛していると」 「生きてるよ。アキラは……」 「それはあなたの中では……でしょう!」 「別に解釈は自由だからな」 「アキラは呪いです!」 「まぁ否定はしない」 「ならわかっているはずでしょう!?」 「……何を?」 「先輩はアキラを諦めるべきです!」 「駄洒落?」 「茶々を入れないでください!」 「でもさぁ」 「まじめな話です!」 「さいでっか」 「…………」 「…………」 「で!」 「で?」 「いつまで夢に浸っているつもりですか!」 「死ぬまで」 「お姉様より……」 「…………」 「蕪木音々よりアキラの方が大事だと!?」 「歯に衣を着せなければな」 「……っ」 「…………」 「そんなにアキラのことが好きなんですか……?」 「当たり前だ」 「日日日ちゃん……」 「ま、だから諦めてくれ」 「諦められますか!」 「そもそもさ」 「…………」 「何でそんなにお前……花々は俺と音々を取り持とうとするんだ?」 「それがお姉様の幸せならば」 「勝手な野郎だなぁ」 「それは先輩でしょう!?」 「何でだよ?」 「お姉様なんて釣り合わない相手に慕情を寄せられて平然と切って捨てるなんて常人じゃ考えられない思考です!」 「とは言われてもなぁ……」 「花々はお姉様が先輩にとられるならそれも良いと思っていました」 「そんなこと言ってたなぁ」 「であればこそ!」 「であればこそ?」 「先輩もお姉様に応えるべきです!」 「応えただろ。嫌だって」 「…………」 「…………」 「いつまでアキラにしがみつくつもりです!」 「だから死ぬまでだって」 「お姉様も……姫々先輩も……アキ先輩も……無視してですか!?」 「さてね」 「だからそういう態度が……っ」 「花々ちゃん花々ちゃん」 「何でしょう姫々先輩?」 「日日日ちゃんも日日日ちゃんなりの意見があるんだからそれを無視するのは不公平だと私は思うな……」 「そういうことだな」 「いけしゃあしゃあと……!」 「厚顔でないとやってられない人生なもんで」 「お姉様は……今……傷ついて……いるんですよ!?」 「知ったこっちゃないって今使うべき言葉だな」 「死んだ人間を想ってもどうなるわけでもないでしょう!」 「殺すぞお前」 「……っ!」 「…………」 「…………」 「さて、つまり」 「…………」 「俺がアキラのことを諦めて音々を恋人にすればいいのか?」 「むぅ」 「そういえば音々が言っていたな。花々が俺に興味を持っていると」 「あくまでお姉様を前提とした話です!」 「そう目くじらを立てるな。墓穴を掘るぞ?」 「っ!」 「例えば俺が花々に愛を囀ったらどうする?」 「………………お姉様に応えよと言います」 「嘘が下手だなお前は」 「嘘をつくのに慣れている先輩よりは誠実でしょう?」 「然りだな」 「結局先輩はお姉様を求めることはしないと?」 「アキラがいるからな」 「わかりました……」 「何を?」 「アキラの存在を抹消するところから始めないといけないと」 「まぁ頑張れ」 「心が込もってません!」 「込めてるつもりもないからな」 「そんなにアキラは魅力的ですか!」 「それはもう」 「根が深い問題ですね……」 「だなぁ。我ながらうんざりするよ」 「でしょうね」 「まぁなんだ……。お前が何を大事にするかはお前次第だからな。俺を好きなのか……あるいはお姉様を好きなのか……それをよく考えることだ」 「先輩に言われたくはありません!」 「然りだな」 |