わしは防御をミラーファンネルに任せて一時Dガンダムの操縦を放棄し、 「っ!」 後ろの席のソール少尉の頬をはった。 パシンと一発。 「……………………え?」 叩かれた頬を押さえて何をされたのかもわかっていないソール少尉がそう呟いた。 そのソール少尉の胸ぐらを掴んでわしはわめき立てた。 「おい! 今は不幸に酔ってる場合じゃねいじゃろが! これじゃマーニ中尉は何のために死んだんじゃ!」 「何のためにって……無意味に死んだんだよ……?」 「違う! マーニ中尉は地球同盟派の人間に殺されたんだよ! なら弔いをせにゃならんじゃろう!」 「とむ……らい……?」 「敵を憎め! 敵を害せ! 敵を殺せ! お前まで死んで浮かばれるマーニ中尉じゃなかろうが!」 「でも……でも……私はマーニが好きで……マーニと一緒なら戦えると思って……」 「なればこそ戦うべきじゃろ! きさんが戦わずに死んで……無意味に死んで……それじゃマーニ中尉も浮かばれんじゃろがい!」 「マーニが浮かばれない……?」 「そうじゃ! 敵を憎め! マーニ中尉を殺した敵を憎め! 地球同盟を憎め! 少尉の持っとる全ての力を解放してマーニ中尉の仇をとれ!」 「私の力で……復讐を……?」 「そうじゃ!」 断定して、わしは改めてDガンダムのコクピットに座った。 Dガンダムにダメージはない。 ノルンの操るミラーファンネルが敵のビームを全て偏向してくれたからだ。 敵が実弾兵器を持っていてくれなくて本当に助かった。 鏡面装甲はビームやレーザーは弾けるが実弾兵器に対しては無力なのである。 「ソール少尉! プフース01だ!」 再度わしはそう叫ぶ。 「……わかりました」 どうやら吹っ切れたらしい。 答えてニュータイプの持つ遠距離感応能力を引き出すソール少尉。 ソール少尉の感応能力に反応してプフース01……サイコフレームウェポンシリーズのナンバリング01がDガンダムの手元まで引き寄せられる。 それは……プフース01は巨大なビームサーベルの柄だった。 プフース01……改め対艦刀ノーチラス。 それをわしは起動させる。 同時に巨大な柄に見合うだけの、刀身が三百メートルを超す巨大なビームサーベルが柄から伸びた。 「馬鹿な! そんな馬鹿な!」 敵機の驚愕の声が聞こえてくるが慮るつもりは毛頭ない。 わしは三百メートルを超える高出力ビームサーベル……ノーチラスを横一文字に振った。 その一振りは敵の量産型モビルスーツ……キラービー二機を一気に完全破壊せしめた。 同時にノーチラスはエネルギー切れとなって刀身が無くなる。 ノーチラスは威力こそ折り紙つきだが、そのあまりの燃費の悪さに一振りごとに充電が必要となる兵器なのだ。 「プフース01回収! 続いてプフース02およびプフース04を展開!」 「了解しました!」 頼もしく答えてソール少尉は遠距離感応能力を引き出してプフース02およびプフース04を呼び寄せる。 既に目の前の敵はクインビー一機だけである。 無論、ウィザード小隊がモビルスーツ四機ならびに戦艦二隻を相手取っているが今は関係ない。 ソール少尉の想いに応えて白鯨に搭載されているプフース04……ライトニングファンネルが十つだけ射出される。 ライトニングファンネル。 それはいわゆるファンネルには違いないのだが、ハイパーブースターを持ち、モビルスーツでは反応できないほどの超機動を可能とするファンネルである。 そのファンネルにはありえないほどの超高速機動はもはやニュータイプでも見切れず、それが十つも……白鯨には最大三十のライトニングファンネルが搭載されているが……クインビーを狙っているのである。 決着は早かった。 クインビーの攻撃はビームライフルと四つのファンネルの射撃のみだ。 そのファンネルもこちらのライトニングファンネルに比べれば牛歩の速度である。 その圧倒的戦力の前に、クインビーは駆逐された。 直後にソール少尉の遠距離感応能力によってプフース02がDガンダムに装備される。 プフース02……対艦砲スパイラル。 スパイラルはいわゆる一つのレールガンではあるが、大電力によって弾丸を亜光速までスピンさせて質量を増加させて撃ちだす超質量兵器だ。 亜光速までスピンさせるために発射まで時間がかかるが遠距離専用だと割り切ればそれは驚異的な兵器となる。 わしはDガンダムのもつ対艦砲スパイラルを装備させて、地球同盟派の戦艦二隻が射軸に入るような位置に移動した。 それから大電力を起動させて、スパイラルに搭載されている弾丸を亜光速までスピンさせる。 質量が千倍を超えた辺りで、わしはスパイラルから弾丸を撃ちだす。 亜光速のスピンによって大質量を得た弾丸は戦艦二隻に着弾して粉微塵に粉砕した。 当然の結果だった。 そりゃあ亜光速のスピンをかけられてる弾丸なんぞが直撃すれば沈没程度では済まないのは常識である。 「ソール少尉! プフース04でウィザード小隊の援護を!」 「了解しました!」 そんなソール少尉の一喝のもと、ソール少尉の遠距離感応能力によってライトニングファンネルがウィザード小隊と戦っているクインビー一機とキラービー三機に襲い掛かる。 戦艦を失って狼狽している敵機はあっさりとライトニングファンネルの前に轟沈した。 こうして戦闘は終了した。 開発班から歓喜の雄叫びがあがる。 それはそうだろう。 これなら……白鯨とDガンダムの戦力なら劣勢に追いやられている自由会議を救えるかもしれないのだ。 破壊的な戦力。 プフースの威力も実戦で示された。 はっきり言って圧倒的だ。 わしはDガンダムを白鯨に着艦させて、艦長に問うた。 「それで艦長……これからどうする気じゃ。もうこのコロニーでのテストは出来んぞい?」 「ヴァルハラに向かおうと思います」 あっさりと決断する艦長だった。 「ヴァルハラ……ね……」 ヴァルハラ……そこは自由会議派の要塞コロニーの名前だった。 自由会議派の本拠地とも言える。 たしかにそこでなら安全に白鯨計画のテストが行なえる。 「…………」 わしはこの時将来を看過できるほど長けた人間ではなかった。 まさか白鯨計画がEF戦争の終結を導くとは思いもよらなかったのだった。 |