「……っ! ノルンか!」 白鯨のメイトリクスに座しているのだろうノルン……プフースに必要な戦艦側のニュータイプである……による支援だった。 「…………」 ちなみに返事は返ってこない。 寡黙な奴だから無理もないが。 プフース05……《ミラーファンネル》。 それはニュータイプのイメージによって操作されるファンネルには違いないが、射撃兵装を装備していないタイプのファンネルである。 ミラーの名の通り鏡面装甲を持っており、ビームを偏向することが出来る防御兼反撃用のファンネルだ。 事実ミラーファンネルによって跳ね返されたビームによって一機のキラービーが撃沈していた。 ミラーファンネルはDガンダムの周りを衛星のように回りながらDガンダムに向けられたビームの嵐を偏向しつづけていた。 ノルンに感謝せねばなるまい。 わしは安心して敵に背を向けコロニーの港に急いだ。 「させるか!」 そんな無線の声が聞こえてくる。 どうじにクインビーがビームライフルをDガンダムではなくコロニーの港に照準を向けて……そして撃った。 当たり所が良ければ戦艦すら轟沈させられるビームはコロニーの港に吸い込まれるように収束して爆発を起こした。 わしは焦る。 「白鯨! 白鯨は無事か!」 そんなわしの無線に、 「損害は軽微です!」 そんな言葉が返ってくる。 ホッとしたわしはミラーファンネルを従者のように従えてコロニーの港……白鯨へとおりたつ。 コロニーの港は先ほどの爆発で損害を受けてボロボロだったがガンダリウム合金製の白鯨は無傷だった。 安心してわしは白鯨にDガンダムを着艦させる。 それからDガンダムの胸部コクピットから出て、 「ウォードッグカスタムに乗り換える! 準備を!」 と命令を下すと、 「アイサー!」 と頼もしい声がかかる。 「マーニ中尉とソール少尉は?」 「もう白鯨に乗り込んでも良い頃合いですけど……」 「なにしてやがるんだあの二人は……!」 特にソール少尉というニュータイプがいなければプフースが運用できずDガンダムはただのモビルスーツ以下になる。 と、ズウンと鈍い衝撃音が艦内まで聞こえてきた。 おそらくコロニーの港目掛けてキラービーとクインビーがビームライフルを撃ってきたのだろう。 大方はミラーファンネルが防御しているのだろうが、さすがに手が回らないと見える。 早く外に出て戦わねば。 そう思いウォードッグカスタムに乗ろうとしたところで、 「報告!」 とコクピットに、いや、白鯨全体に無線の声が響いた。 「マーニ中尉が亡くなりました!」 …………。 ……………………。 ………………………………。 はい? ウォードッグカスタムに乗り込もうとしたわしはその頓狂な報告に思考が真っ白になった。 ならざるを得ないだろう。 「白鯨に乗ろうとしたところで敵機のビームライフルの直撃を受けてマーニ中尉は死亡。ソール少尉を保護したところです」 ちょっと待てと。 「マーニ中尉が死んだって……どうするんじゃ! Dガンダムじゃなきゃこの状況は打ち破れんぞ!」 無線に向けて叫ぶわし。 「おい艦長さんよ。どうする気じゃ?」 「仕方ありません……」 苦汁の声で言葉を紡ぐ艦長。 「スコル少佐。ソール少尉と共にDガンダムに乗ってください」 「わしが!?」 「それ以外に道はありません。マーニ中尉がいない以上Dガンダムに最も慣れているのはスコル少佐です」 「…………」 沈黙するわし。 またズウンと衝撃音が聞こえてくる。 「こりゃゆっくり悩んでいる時間は無いみたいだな……あいわかった。わしがDガンダムに乗る!」 「よろしくお願いしますスコル少佐」 そんな艦長の言葉を受けて、わしはウォードッグカスタムからDガンダムへと乗り移る。 「ソール少尉は!?」 「今そっちに向かってます!」 そんな無線を受けた直後、ソール少尉がモビルスーツ整備室に姿を現した。 「ソール少尉! 早く乗れ!」 そんなわしの怒号に、 「…………」 沈黙したまま、ふよふよと無重力の中をDガンダムのコクピットまで飛ぶソール少尉。 ソール少尉はそのままプフースを管理するコクピット……とはいっても複座式で、わしと縦に並んだ座席ではあるのだが……に安置する。 それからわしは解放されていた胸部コクピットの入り口を閉じて、わしが乗るはずだったウォードッグカスタムのビームライフルを奪うと、カタパルトにDガンダムをセットして艦長に言う。 「Dガンダム! いつでも行けるぞい!」 「了解しました。白鯨……発進!」 そして白鯨……ダークリーモービーディックがコロニーを脱して発進するのだった。 白鯨の防御を担当するのはノルンの操るミラーファンネル。 その数……実に十と五つ。 ミラーファンネルは敵のビームを偏向しつづける。 「スコル! Dガンダム! いくぞい!」 そしてDガンダムはカタパルトを出て宇宙へ。 待っていた洗礼は敵のビームという形をとっていた。 しかしてそれらは白鯨の周りを飛翔するミラーファンネルによって守られた。 わしはDガンダムに装備させたビームライフルでキラービーを牽制しながら、わしの後方のコクピットに座っているソール少尉に命じる。 「ソール少尉! プフース01だ!」 「なんで?」 ………………………………なんでて。 「マーニが死んだんだよ? もう私が生きる意味なんてないじゃん」 虚無的にそう言うソール少尉。 ソール少尉は呆然としていた。 |