宇宙に出たわしは、このコロニーを護衛している一隻の戦艦と四機のモビルスーツを確認する。 戦艦は《シシオウ》と呼ばれるアヴァランチグループの量産的かつ一般的な戦艦である。 重粒子砲と大質量砲……そしてモビルスーツを格納する能力を備えた基本的な戦艦だ。 そしてそんなシシオウの周りに浮遊しているのがアヴァランチグループの主流モビルスーツ……《ウォードッグ》である。 汎用的な人型モビルスーツで、黒く塗装されステルス機能を備えた宇宙の忍者である。 持っている武器はビームライフルにビームサーベル。 ステルス機ではあるがそれはあくまでレーダー範囲での話である。 残念ながらミノフスキー粒子によってレーダーが効かない戦場においては「黒くてちょっと見にくいモビルスーツ」以上のモノではない。 無論、強襲を仕掛けるのなら話は別であるのだが……。 わしは戦艦シシオウならびにウォードッグ四機に無線で声をかけた。 「こちらDガンダム……スコル少佐である。白鯨計画における過程試験を行ないたい」 「了解した」 とシシオウから肯定の言葉が返ってくる。 「シズン……ウォードッグにてDガンダムの過程試験に協力せよ」 「アイサー」 それらは無線で行われるやりとりだった。 そしてウォードッグの一機がこちらに近付いてくる。 太陽を背にしたウォードッグがわしの操るDガンダムに接近する。 「少佐……お相手いたします」 ウォードッグからそんな言葉が送られる。 「うむ。よろしく頼む」 わしはそう答えた。 そしてわしはDガンダムに唯一装備されている固有兵装たるビームエッジを展開する。 ビームエッジ。 それはDガンダムの手足を包むように展開されるビームの刃だ。 射程はビームサーベルの半分程度。 ただし両手両足の四カ所に展開が可能となっており、操るものが操ればビームサーベルよりも凶悪な兵器と化す。 そしてDガンダムとウォードッグの模擬戦闘が始まる。 ウォードッグはビームライフルを腰に格納して、両手にビームサーベルを装備しDガンダムへと襲い掛かる。 わしはコクピットからDガンダムを操作して、両手にビームエッジを展開する。 ウォードッグのビームサーベルがDガンダムを襲う。 それをビームエッジで切り払うわし。 わしが手加減していることもあってDガンダムとウォードッグの模擬戦闘は互角の体をなしていた。 ウォードッグはがむしゃらにビームサーベルを振るう。 「……っ!」 それをわしはビームエッジで切り払う。 次の瞬間、わしの操るDガンダムがウォードッグのコクピット目掛けて蹴りをくわえていた。 もし脚部にもビームエッジを展開していたなら、コクピットを焼き切ったはずの一撃である。 それらの模擬戦闘を観察していた開発班から無線の通信が送られてくる。 「少佐……Dガンダムの機能はどうでしょう」 「良好に尽きる。これならマーニ中尉でも存分に動かせるはずだ」 「了解しました。では白鯨に帰投してください」 そう指令が下る。 「了解した」 と言って帰投しようとしたわしは。 「……っ!」 レーダーにノイズが走るのを確認して絶句した。 レーダーが使えなくなる。 それは個々が戦術的において分断されるということである。 「これは……!」 わしはこの現象を知っている。 なにせ二十年も付き合った現象だ。 これは、 「ミノフスキー粒子によるレーダー妨害……!」 だった。 ミノフスキー粒子の存在によって有視界内での戦闘しか行えないのは現代の常識だ。 しかして何故ここに? なんのために? 無論、頭ではわかっている。 これは……敵襲だと……。 「敵襲! ウィザード小隊……第一戦闘配備!」 そんな声が無線を通してシシオウから流れてくる。 「有視界圏内に戦艦およびモビルスーツ確認!」 言われて指示された方角を見れば有視界圏内に二隻の宇宙戦艦と八機のモビルスーツを捉えることができた。 「……っ!」 絶句するわし。 二隻の戦艦に六機のキラービーに二機のクインビー。 それが敵戦力の全てだった。 キラービーは地球同盟派の量産型モビルスーツでありウォードッグと同じくビームサーベルとビームライフルを持つ黄と黒のカラーリングの人型だ。 クインビーは地球同盟派のエース級モビルスーツであり、ビームサーベルとビームライフルの他にオールレンジ兵器……ファンネルを四つも持つ赤のカラーリングの人型だ。 最悪だ。 考えうる限り最悪の状況である。 相手は白鯨計画を看破していると見て当然だろう。 そしてそれを潰しにきたのである。 あるいは奪いに……だろうか。 とまれ、二隻の戦艦と八機のモビルスーツはこちらを殲滅する気満々なのだ。 これを最悪と言わずに何と言う? 「少佐! 白鯨の運用を! ウィザード小隊で時間を稼ぎます!」 「直接白鯨に言え!」 どなってわしはコロニーへと急ぐ。 Dガンダムは白鯨と共にいなければ普通のモビルスーツよりスペックの上では劣るのである。 プフースを用いて初めて超戦術級の戦力を持てるのだ。 「白鯨! 白鯨! こちらスコル! 白鯨の戦闘配備を!」 「今やっています!」 焦るような声が戻ってきた。 気持ちはわかる。 タイミングとしては最悪だ。 白鯨計画の最終試験前に襲われたのだ。 どこでいつ誰によって地球同盟派に白鯨計画が流れたのか知らないが……迷惑千万この上ない。 「マーニ中尉とソール少尉は!?」 「今緊急で呼び出しています!」 「ちぃ! わしのウォードッグカスタムは!」 「整備終わってます! いつでも出れます!」 「了解!」 そう言った瞬間、 「……っ!」 ゾクリと悪寒を感じてわしは急激に回避行動をとった。 次の瞬間、Dガンダムが先ほどまでいた空間にビームが通り過ぎた。 見ればファンネルがDガンダムに照準を定めていた。 「ちぃ!」 コロニー護衛のためのウィザード小隊と戦闘を始めたのは敵の小隊一つ……つまりキラービー三機にクインビー一機だけであり、もう一つの小隊であるキラービー三機にクインビー一機はコロニー目掛けて突貫していた。 わしはクインビーの放ったファンネルの攻撃を避けながら、コロニーの港へと逃げ込もうとブースターを噴かせる。 しかしてそれにも限界がある。 クインビーの搭載する四つのファンネルと三機のキラービーのビームライフルの銃口に狙われるわしおよびDガンダム。 ここまでか……! そう覚悟を決めて七条のビームをどうにか回避しようとして、それが無理だと悟った次の瞬間、 「……!」 ミラーファンネルがDガンダムの盾となりビームをあらぬ方向へと反射した。 |